玄関を出ると、家の門の前に彼が立っていた。

以前と少しも変わらない涼しげな顔で微笑んでいる。

「どうして!?」

ニューヨークにいるはずの澤井さんがここにいるなんて夢みたいで信じられない。

その姿が本物かどうか確かめるように彼に駆け寄るとその腕をぎゅっと握ってみた。

澤井さんもそんな私を笑いながら抱きしめる。

「なかなか帰って来れずすまない。ようやく仕事が落ち着いてね。今朝一時帰国したんだ」

「教えてくれたらよかったのに。心臓が止まるかと思っちゃいました」

私は彼の顔を見上げた。

「驚かせたくてね」

「私もニューヨークまで会いに行こうと思ってドキドキしていたのに」

「そうなの?」

澤井さんはうれしそうな顔で笑う。

「父が、会いに行ってきていいって言ってくれたんです」

なんだか興奮が冷めなくて、がむしゃらにしゃべっている自分がおかしい。

そんな私を彼は頷きながら優しく見つめていた。

「お父さん、そんなことまで言って下さったんだ。きちんと挨拶しなくちゃいけないな。今日はお父さんは?」

「朝から友人と出かけてしまって」

「そうか。また出直そう。それはそれとして、今から出かけられる?」

「もちろんです!」

「そのままじゃ、ちょっとまずいだろ?」

彼は私の姿を見ながら吹き出した。

あ、すっかり忘れていた。

化粧もせずパジャマのまま、突っかけを履いて飛びだしていた自分を。

一気に恥ずかしさで顔が熱くなる。

「相変わらずだな、真琴は。車で待ってるから用意しておいで」

彼は優しく私の肩をポンポンと叩いた。

私は「はい」と頷くと、慌ててつんのめりそうになりながらまた家に戻った。