「お父さんが喜んでるって話したら、澤井さんもとても嬉しそうだったわ」

「そうか。澤井さんは向こうで元気にしているのか?」

「ええ。毎日忙しいみたいだけど、人間関係のトラブルでまとまりがなくなっていたニューヨーク支店も落ち着きを取り戻して、成績も好調だって」

父は目を細めて頷くと、またビールを口に含んだ。

「澤井さんは、今度はいつ日本に帰ってくるんだ?」

どうしてそんなこと聞くんだろう。

「支店長の身分だからそうそう帰れないみたい。落ち着いたら、残っている引き継ぎがあるから戻るとは言ってるけど、いつになるかはわからないんだって」

「そうか」

父はそう呟くと、つけっぱなしのテレビに目を向けたまま続けた。

「俺も店も落ち着いてきたし、澤井さんに会いに行ってきたらどうだ?」

そんなこと言うなんて、今までの父では考えられない。思わず、目を丸くして聞き返す?

「ニューヨークに行ってきていいの?」

父は尚もテレビに顔を向けたままうなずいた。

「お父さんがそんなこと言うなんて、信じられないんだけど」

感動で震える胸を押さえながら言った。

父は苦笑すると、ようやく私に顔を向ける。

「真琴は信じられないくらい頼りになる娘に変わったんだから、俺も変わらないとな」

父の少し照れた顔を見つめた。

「お父さん、ありがとう」

そして、

空から見守ってくれていたお母さんにありがとうと心の中で呟いた。