父は額に手を当てたままうなだれている。

「今日は久しぶりだったから疲れたでしょう。早めに休んで」

そんな父の肩を抱きながら声をかけた。

「もう、俺はダメなのか?これまでのようにうまい菓子を作って皆の笑顔を見ることはできないのか?」

くやしさを滲ませた声で自分自身に問いかけている。

「俺から菓子作りを奪われたら、生きてる価値なんてありゃしない。あのまま死んじまえばよかったんだ」

「何言ってるの!」

思わず声を荒げて父の肩をぐっと掴んだ。

「私は・・・・・・私はお父さんが生きててくれて本当によかったんだから。そんなこと冗談でも言わないで」

父はようやく視線を上げて私の目を見た。

「お前にも迷惑かけるな。仕事まで辞めさせちまって。こんな自分に嫌気が差してるんだよ。すまない」

私は父の手をそっと取ると、しっかりと父の目を見つめ返す。

「私は大丈夫だよ。お父さんがどれだけこのお店を大事に守ってきたか、お店に立って初めてわかったの。こうしてお父さんのお手伝いができることは幸せなことだって思う」

「真琴」

父は私の頭を子ども時にしてくれたように優しく撫でた。

「少し見ないうちにすっかり立派になったな。俺の知ってる頼りない真琴はどこへ行ったんだ」

そう言って、目を細めた。

「頼りない真琴はもういないわ。だから、お父さんはもっと私を頼って。そして早く右手を治そう」

「ああ、そうだな」

父はうつむくと、目頭をタオルで押さえた。

いつも強気で頑固な父だけど、人一倍私には涙もろくて。

そんな父が大好きだった。父の右手をそっと擦る。

父は私から顔を背けたままふいに尋ねた。

「そういえば、澤井さんとはどうなんだ」