「今日は、お時間頂きありがとうございました。どうかお大事になさって下さい」

澤井さんはもう一度深く頭を下げた。

「真琴、今日は澤井さんと一緒に帰りなさい。少し一人で考えたいから」

寄り添う私の肩をポンポンと叩き、父は僅かに口元を緩めた。

「わかった」

父の妙に何かを悟ったような横顔を見つめながら、病室の扉を閉めた。

二人とも黙ったままエレベーターに乗り、降りていく。

一階に降りると、私から澤井さんの手を握った。

彼の手はとても熱かった。

「ありがとうございました。うれしかったです」

澤井さんは、握った手に力を込めて「うん」と言って微笑んだ。

きっと、言葉には出さないけれど、澤井さんも私以上にすごく緊張していたはず。

それなのに、私を心配させたくなくて必死に堪えていたんだろう。

「お父さんに俺の気持ちが伝わっているといいな」

彼は少しオレンジがかった空を見上げながら言った。

「きっと伝わってます。っていうか、これで伝わらなかったら馬鹿親父です!」

私はそう言って笑った。

「真琴は、相変わらず言うよな」

澤井さんも笑いながら私を引き寄せ、耳元で小さくささやくと私の頬にキスをした。

「どんな真琴も愛してる」