「真琴は決意を固めて家を出た。しかし、すぐに戻って来た。一度あることは何度だってある。俺は君の言うことは信じられない」

「それは私が・・・・・・」

私が勝手に彼の元を飛び出したことを言おうとしたけれど、澤井さんに肩を掴まれ制される。

「それは僕の至らなさでそういう自体を招いてしまいました。真琴さんにも本当に辛い思いをさせた。だからこそもう二度とそういう思いをさせないと約束します」

「何が約束だ。馬鹿馬鹿しい」

「僕は」

澤井さんは父の前に一歩出ると、しっかりと父の目を見つめながら続けた。

「僕は、真琴さんのためなら自分の命をかけても構わないと本気で思っています」

「な?」

彼の気迫に圧倒され、父は目を見開いて見つめ返す。

「お父さんが、真琴さんをこれまで命がけで守ってこられたように、今度は僕が真琴さんを命がけで守ります」

澤井さん・・・・・・。

彼の横顔と父の顔を見つめながら胸が切なく震えていた。

父の目は真っ赤に潤んでいた。

「お父さん」

思わず、父のそばに寄りそう。父が好き。澤井さんも好き。
とても大切な存在だから、大切な人にはその大切な人との関係を許してほしい。ただそれだけだった。

澤井さんの顔を見上げると、彼の目も父をじっと見つめながら潤んでいるように見えた。

そして、澤井さんは父に深く頭を下げた。

「君の気持ちはわかった。だが、俺にもしばらく考える時間をくれ」

彼はゆっくりと頭を上げると、「はい」と言って頷く。

それから、澤井さんは自分のジャケットの内ポケットに入れていた名刺入れを取り出し、一枚の名刺を父に手渡した。

「こちらの者は僕の知り合いの脳神経外科医です。日本でも有数の名医ですので、もし術後の経過で心配なことがあればいつでもご連絡下さい」

父は名刺を見つめたまま、小さく「ありがとう」と呟いた。

澤井さん、私が寝ている間にその先生にすぐに連絡をとってくれたんだ。

感謝の気持ちで胸が震える。