「真琴ちゃん、今日もがんばってるわねぇ」

近所に住む和田さんが今日も店に足を運んでくれた。

「いつもありがとうございます」

「お父さんの具合はどう?」

「ええ、今リハビリ中で、来週には一旦退院できそうです」

「お店にはすぐ復帰できるの?」

私は言葉に詰まって苦笑した。

父の経過は順調だったけれど、僅かに右手に麻痺が残っていた。これまで通りの菓子作りはまだどう考えても難しい。

父も今すぐにでも仕事に復帰したそうだけれど、自分の右手が思うように動かず最近はお見舞いに行っても不機嫌だった。

私も会社に休みをもらっているけれど、もうすぐその休みも終わる。

そうなったら店はどうすればいいんだろう。

今は父にそんな相談するのも憚られた。

私は、正直会社を辞めて店をこのまま手伝おうかとも思っている。

ただ、それを父が認めるかどうかはわからない。

定休日の前日、山川さんが店の後片付けはしておくから久しぶりに彼氏と一緒に過ごしてらっしゃいと送り出してくれた。

ゆっくり彼と過ごせるのはいつ以来だろう。

澤井さんにも色々と相談したいことが山積みだった。

久しぶりの彼の住むホテルに向かった。

彼の部屋は相変わらず何もなく整然としていたけれど、キッチンにはカップ麺の残骸が転がっている。最近毎日忙しいようで電話もままならない。きっと疲れてるんだろう。そんな時、自分のことばかりで支えてあげられない自分を不甲斐なく思う。

せめて澤井さんが帰るまでに部屋をきれいに掃除して何かおいしいものを作ってあげよう。