11.言い出せない思い


父は定休日以外は店を休んだことがなかった。

さすがに私と山川さんだけではそれは難しかったから、とりあえず三日間だけ臨時休業させてもらって、四日目から開店した。

また、会社には父の入院ということで三週間の休みをもらうことにした。

亜紀も快く引き受けてくれて本当にありがたい。

澤井さんとは・・・・・・

また一緒に同居生活したかったけれど、店のことがあるからやはり実家にいる方が近くて便利ということもありしばらくその生活はお預けになった。

でも、彼は忙しいのに仕事が早く終った日は、必ず店に寄ってくれた。

店には、当初予定していたおはぎと和三盆ロール、抹茶プリンのみを出している。

事情をわかってくれている昔なじみのお客さんが毎日のように顔を出しては、買ってくれた。

お客から聞く父の顔は私の知らない顔ばかりで驚かされる。

あるおばあさんからは孫が来た日には、父はこっそりおまんじゅうを多めに入れてくれたと喜んでいた。

毎日買いにきてくれる女子高校生は、大好きなどら焼きが売り切れそうになった時はいつもを自分のために一つだけ取っておいてくれたと感謝していた。

ささやかなサービスをしながらこの店を愛してくれる人達を増やしていってたんだね。

そんな父の話を聞くと私も嬉しかった。この店に立つまでは全く知らなかったことだったから。