「ここまで来れたのも、澤井さんから教えてもらった『決意と信用が仕事には大事だ』っていう言葉が私を支えてくれたんです」

「俺、そんなこと言ったっけ?」

澤井さんは照れ隠しなのか、私から顔を背けておどけた調子で笑った。

「言ってました!」

思わず彼の腕を軽く叩きながら私も笑う。

「そんなことより」

彼が私の腰に腕を回して自分に引き寄せ、耳元で聞こえるか聞こえないかの小さな声でささやく。

「早く真琴と二人きりでいちゃいちゃしたい」

一気に体中が熱くなる。少し会わなかっただけなのに、そんなこと言われただけで信じられないほどに心拍数が上がった。

「今日は京都に泊まるか」

彼の提案にドキドキする胸を押さえながら答える。

「今夜は山川さんと一緒に店で仕込みする予定だから」

「夜までに帰ればいいんだろ?じゃ、まだ時間はたっぷりある」

澤井さんは私を試すような目で笑う。私だって本当はこのままずっと彼と二人で過ごしたい。

だけど、今は店にとってはとても大事な時だっていうことははっきりしていた。きっと澤井さんもその事は私以上にわかっているはず。

そんな気持ちを見透かすように、彼は優しく微笑み私の前髪をそっと撫でると言った。

「とりあえず、京都にはおいしいものがいっぱいあるからまずはしっかり腹ごしらえしようか」

「はい!」

お腹が空いていた私は思わず大きな声で返事をした。

「ほんと、真琴ってたまらない。俺としては真琴で腹ごしらえしたい気分だけどね」

またそんなことを言うもんだから顔がカッと熱くなる。

彼は真っ赤になってる私を見て楽しそうに笑った。

「俺、今すごく幸せだよ」

そしてまた私の手をしっかりと握り締め歩き出した。

公園の緑は青々と日の光に照らされ揺れている。

いつの間にか新緑の季節になっていた。昨年の今頃は自分がこんな素敵な彼と手を繋いで公園を歩いてるなんて思いもしなかったのに。

「私もすっごく幸せです」

彼に聞こえないように小さく呟いた。