わ、私にそれを聞く??わかるわけないし!

「・・・・・・わかりません。そんな経験したことないし」

小さく呟きながら、情けないやら恥ずかしいやらで顔が熱くなる。だけど、ここは正直に出た方がそれ以上突っ込まれることはないだろうと思ったから。

「それはわかってる。だから聞いてるんだ。俺の回りにはこんなウブな女性はいなかったからね。逆にそういう谷浦さんだからこそどう思うのか知りたい」

それはわかってるって?私がそういう女だってこと最初からばれてたの?

親切なイケメンだと思ってたけど、違ってたのかもしれない。すっかりこの外見にだまされたんだわ。亜紀に言われていたように優しいイケメンには要注意って言われていたことを一気に思い出して、顔を上げると澤井さんを力を入れた目で見つめ返した。

「からかうのは止めて下さい。そんな風に言われたらそれなりに傷付きます」

「え?」

澤井さんのきれいな顔が一瞬ゆがんで困ったような表情になる。

「私は確かに恋愛経験はありませんけど、人を見る目くらいあります。そういうデリカシーのないところに嫌気が差して彼女さん達も澤井さんから去って行ったんじゃないですか?」

気がつくと、一瞬怯んだ澤井さんに一気に言葉をぶつけてしまった。

三十路前の女の意地とプライドが一気に吹き上げたような感覚。

「俺は君のウブなところを評価して言ったつもりだったんだけど、気を悪くしたなら謝るよ。ごめん」

彼は急に真面目な顔をして目を伏せた。

こんなに素直に謝られて、想像と違った対応に今度は私が怯む。

「きっと君の言うように、俺自身が気づかずに相手を傷付けてることもあるのかもしれないな」

澤井さんは視線を落としたまま、カップを口につけた。

思いも寄らない展開に上昇した感情がクールダウンしていく。