部屋にノックして入ると、既にソファーに社長が座りその横に受付の女性が立っていた。

「失礼します。お待たせして申し訳ありません」

一礼して顔を上げると、社長は「おお」と言って自分も立ち上がった。

「逆に二度もこちらまで足を運んでもらって申し訳ない。あなたにはなんとお詫びしてよいか。失礼千万な態度を取ってしまった私達を許してもらえるだろうか」

「え?」

あまりに社長の態度が一転していて訳がわからずその場で立ちつくす。

「実は、あなたがこちらの受付の佐藤に下さった抹茶プリンなのですが、佐藤が谷浦さんがお帰りになった後、うちの従業員と頂きましてあまりにおいしいので是非社長も味見をして欲しいと持ってきましてな」

佐藤さんの方に目を向けると彼女は恥ずかしそうにうつむいた。

「私も最初は半信半疑で頂いたんですが、うちの抹茶の香りが見事にプリンと調和しており、これほどおいしい抹茶プリンを食べたのは正直初めてでした。これほどうちの抹茶を大切に使って頂けるとは感無量。しかもこのプリンをあなたが作ったと佐藤に聞いて、いても立ってもいられなくなったのです」

「抹茶プリン・・・・・・?」

「あなたの誠意が十分伝わるプリンだった。是非あなたを信頼してうちの抹茶をお譲りしたい」

信じられない。私に抹茶を卸してくれるなんて、もうあきらめきっていたのに。

「ほ、本当によろしいんでしょうか?」

社長はにっこり微笑むと大きく頷いた。

「ありがとうございます!」

私は社長の前に歩み寄り、深々と頭を下げた。

「本当にとてもおいしかったです。他の従業員ももっと食べたいと言ってました。あと、先ほどお会いして頂いた本店長も」

頭を下げている私の横で、佐藤さんが小さな声で言った。

「佐藤さん、本当にありがとうございました」

私は思わず佐藤さんの手を取り頭を下げる。

そして、再び社長に顔を向けた。

「京抹茶さんの名を汚さないよう私も一生懸命作らせて頂きます。父が戻るまでの間、私がしっかり谷浦菓子店でその味を守ります」

「うむ。安心して任せるよ」

社長はそう言うと、私の肩に軽く手を置きそのまま部屋から出て行った。

安心して任せてもらえるって、こんなにも気持ちを高ぶらせるものなんだ。

夢見心地のまま、私も部屋を後にし、佐藤さんや従業員の皆に挨拶を済ませ店を出た。

出た瞬間、早足になる。一刻も早く会いたい。

・・・澤井さん。