タクシーの後部座席に澤井さんと並んで座っている。

どうしてまた急に社長が私と会おうとしてくれてるのか、あまりの急展開に自分の思考力もついていかない。

じっと正面を見据えたまま動かない私の手を、彼は優しく握ってくれた。

「大丈夫でしょうか」

思わずすがるような気持ちで澤井さんに尋ねる。もちろんまだ詳しい話はしていないから彼にも一体何のことだかわかっていないのに。

「大丈夫だ。真琴ならきっとうまくやれる」

京抹茶の看板がフロントガラスの向こうに見えてきた。

心臓がバクバクしている。

いい話かどうかはまだわからない。こっぴどく叱られるようなことをしてしまったのかもしれない。

看板の前でタクシーから降ろしてもらう。

「行っておいで。俺はここで待ってるから」

澤井さんは優しく微笑み、私の背中をポンと押した。

ここで彼が待っていてくれるというだけで、不思議と勇気が湧いてくる。

全てがうまくいくような気持ちになっていた。

一人きりで挑んできた自分の緊張の糸が一気に緩むようだった。

自分らしくあれ・・・・・・

ふとそんな言葉が胸の奥から私の脳天を突き抜けていく。

私は一歩踏み出し、店内に入って行った。

「いらっしゃいませ!」

元気のいい店員の声が響く。

私の姿を確認した店員が「あ、さっきの」と小さく呟くのが聞こえた。

「谷浦様でしょうか?」

すぐにその店員に尋ねられる。

「はい」

私は頷いた。

店員に促され先ほど通された奧の部屋に案内される。