「こんな、へんてこな私を好きでいてくれてありがとうございます」

澤井さんはふっと目を細めて微笑んだ。

「私は、澤井さんの全てが大切だって気付きました。どんな澤井さんであったとしても、私も澤井さんじゃないとダメなんです。過去も含めてそれが今の澤井さんを作ってるんだとしたら、私はあなたの過去も全て必要なんだって気付きました」

「俺の過去も全て?」

「だから、もう大丈夫です。過去の彼女さんのこと・・・・・・」

彼はぎゅっと私を正面から抱きすくめた。

「もういい。十分わかった」

「本当ですか?」

「ああ」

「よかった」

ようやくたどり着くべき場所に到着したような安堵感で彼の背中に腕を回す。

その瞬間、ポケットのスマホが激しく震えた。

また亜紀からかしら?こんな素敵な瞬間に誰から?

無視しようと思うのに、スマホはしつこく震えている。このしつこい感じは電話?

「俺に気を使わないで出たら?」

澤井さんは笑いながらゆっくりと私から体を離す。

「すみません」

私は首をすくめると、ポケットからスマホを取り出して耳に当てた。

『谷浦さんですか?』

「はい、そうですが」

『京抹茶の受付の佐藤と申します。先ほどは失礼致しました』

京抹茶の受付?さっき、私が抹茶プリンの入ったクーラーボックスを預けたあの女性から?

『まだ京都にいらっしゃいますでしょうか?』

その受付女性は随分気が急いてるようだった。

「はい、まだいます」

『よかったぁ・・・あの、すぐにうちの社長が会いたいと申しておりまして、もう一度お会いできませんか?』

「社長が?」

思わず目を丸くして彼の顔を見上げてしまった。

澤井さんも片方の眉をぴくんと上げて私の目を見つめている。

「はい、まだ近くにおりますのですぐに伺います!」

私はスマホを切ると澤井さんの腕をぎゅっと掴んだ。

「社長が会ってくれるって!」

「社長?なんだそれ」

澤井さんは首を傾げながら苦笑する。

「とりあえず、すぐに京抹茶に向かいます!」

「京抹茶って、あの抹茶の老舗店だよな。まさかそこに一人で乗り込んで行ってたのか?」

私は澤井さんの目を見つめながらコクンと頷くと、彼は苦笑しながら額に手を当てた。

「興味深い話だけど後で聞くとして、とにかく急いだ方がよさそうだな。すぐにタクシー拾って京抹茶に向かおう」

そう言うと、急な呼び出しに動揺して硬直している私の肩をそっと抱き、エレベーターに急いだ。