「俺のやんごとなき事情、聞いてくれる?正直、誰かに話したくてうずうずしていたんだ」

私は黙ったまま彼の目を見つめ、こくんと頷いた。

「このホテルってさ、皆ほとんどの人間がスキーしにきてるよね。まぁ、谷浦さんは怪我してるからしょうがないとして。俺も本当はロビーで時間つぶしにきたんじゃなくスキーしにきていた」

澤井さんは足を組み替えると、ガラスの向こうに広がる雪山に目を向ける。

「まさか一人でですか?」

そっと探るように尋ねた。その先の答えを聞くのが少し怖い。

澤井さんは私に視線を向けるとフッと口元を緩める。

「彼女と来てた」

ああ、やっぱり。一気にズドンと強く深い穴に突き落とされる。

彼に気づかれないように浅く深呼吸した。

「彼女さんは今どちらに?」

「帰ったよ。っていうか、もう彼女でも何でもない」

「って?」

「正月早々別れた」

澤井さんも私に負けないくらいの衝撃の幕開けだったんだ。
一人勝手に同士みたいな感覚になって、さっき突き落とされた暗い穴から這い上がる。