朝早く更衣室で着がえているところに亜紀が「おはようございます!」と元気な声で入ってきた。

更衣室に二人きりなのを確認すると、今日同居先から飛び出してきたと亜紀に手短に伝える。

「昨日、衝撃同居生活の告白を受けたっていうのに、その翌日に家出てきたって何それ?」

亜紀は目を丸くして、笑うとも怒るともどちらでも取れるような表情で言った。

「ごめん」

「別に謝る話でもないけど、一体何があったのよ。幸せの絶頂じゃなかったの?」

亜紀は自分のロッカーの鍵を閉めると私の方に向き直りながら手提げバックを腕にかけた。

「亜紀と色々話しているうちに、モヤモヤしてることははっきり本人に聞かなくちゃっていう気になって聞いてみたんだけど、結局モヤモヤは晴れなくて一層落ち込んだっていうか」

「なんだか長くなりそうな話だね。今は時間ないからまたゆっくり聞かせて」

そう言いながら腕時計に目をやり私の肩を押しながら更衣室を出る。

少し早足の亜紀の横顔に小さな声で思い切って尋ねた。

「すごく厚かましいお願いなんだけど今晩亜紀の家に泊めてもらえないかな?」

「え?」

亜紀の歩みが止まり、私の方にくるっと顔を向ける。

「実家は?」

「同居する時に飛びだして来てるから帰れないんだ」

「そっかぁ」

少し困った顔をした亜紀は腰に手を当てた。

「実は今日、実家に帰る予定なんだよね。お姉ちゃんが今出産前で家に帰ってて、家族で久しぶりに食事に行く予定なの」

「そうなんだ。じゃ、いいよ。他探してみる」

「うん、ほんと役に立たなくてごめん」

亜紀は両手を顔の前で合わせてすまなさそうに謝った。

全然謝る必要にないのに。

自分がものすごくわがままで自分勝手な人間に思えて自己嫌悪に陥る。

家族で食事か・・・・・・。

ふいに父のことを思いだして切なくなった。

あれから父には連絡をとってない。

山川さんに任せてきたから安心してることもあるけど、やっぱり家を出た身で自分から連絡取るのは気が引けた。