極上恋夜~この社長、独占欲高めにつき~

彼は玄関を開けて脚を踏み入れると、入ってすぐの廊下に荷物を置き、私が降りやすいように腰をおとした。

「ほら、着いたぞ。さっさと降りろ」

素直に降りようか……それとも、お酒の力を借りてワガママでも言ってみる?

どうせ今日で最後だ。甘えさせてもらっても、後腐れないだろう。

「……こんな冷たい床に放り出すなんてひどい」

「……どこまで運べばいいんだよ!」

悪態をつきながらも、彼は私のパンプスを脱がし、部屋の奥まで運んでくれた。
意外と面倒見のよいタイプらしい。

いや、意外ではないか。
この五年間、彼はブツブツ愚痴をこぼしながらも、ずっと私の面倒を見続けてきてくれたのだから。

二言目には「面倒くさい」と漏らしていたけれど、彼は一度だってたいして出来のよくない私を見捨てなかった。

敏腕、そして出世頭と称され、三十歳という若さで課長に上り詰めた彼。

対して、五年経っても平社員のままの、うだつの上がらない私。

そして、彼の優しさに甘え続けてきた五年間。

彼の存在は遠くて、愛おしくて、同時に自分が情けない。