「咲島さん、今日の商談、俺も一緒に行くから。出るときに声をかけて」

逢沢さんが私のデスクのうしろから、早口で話しかけてきた。

かと思えば、これから会議なのだろう、ノートパソコンを小脇に抱えて慌ただしく去っていく。

――逢沢さんも一緒なら、安心だな……。

正直言うと、かなり緊張していたのだ。

今まで、こういう機会にひとりで客先へ乗り込むことなどなかったから。

いつだって隣には必ず、神崎さんがいて……。

――集中!

パン、と頬を両手で叩いて、気持ちを引き締めた。

甘えてちゃだめだ、頑張らなくちゃ。逢沢さんのフォローがなくてもひとりで商談がまとめられるように。

だって私にはもう、仕事しか残っていないのだから。