【先に行く】

私のよく知る達筆な文字で殴り書きされていて、ああ、彼がここにいたことは紛れもない事実だったんだと実感した。

メモ意外に、彼の残り香を感じられるものはなにもなかった。

ただ、玄関の鍵はキチンと絞められていて、合鍵がなくなっていた。

合鍵を持っていてくれる――その事実がまるで、再会の約束のように感じられて……。

いつか迎えに来てくれるなら、いつまででも待とう。

その約束だけで、これから先、ひとりでも生きていける気がしていた。