「やっぱり、私、ひとりで帰れますから。大丈夫です」

そう微笑みかけたところで、ぽつりと、頬に雫が落ちてきた。

パラパラと、急に雨音が鳴り出して、あっという間に本格的な雨が降ってくる。

咄嗟に逢沢さんがビジネスバッグの中から黒い折り畳み傘を取り出して、私の上に差してくれた。

「……傘、持ってる?」

逢沢さんの問いかけに、私はふるふると首を横に振る。

「……タクシーで帰ろうかな。君の家は通り道だから、乗っていってよ」

その言葉すら、彼の優しさだとわかっていた。

困惑する私をよそに、彼は素早くタクシーを捕まえ、私を後部座席へと押し込む。

結局、今日も、彼の好意に甘えさせてもらう私は、なんて心の弱い人間なのだろう。タクシーの中でぎゅっと目をつむり自分の体を抱きしめた。