その証拠に距離を離し逃げるどころかカツリとヒールを響かせ彼の懐近くにその身を寄せる。
彼の手から紫煙漂う煙草を回収すると自分の口元に挟んで唇の色味を煙草に移した。
「…で?楽しかった?久しぶりのリアルは」
「……疲れたわ。靴擦れも痛いし」
「フッ、痛いの好きでしょ?センセ」
「………先生言うな」
「じゃあ……契約更新?」
待ってました。そんな笑み。
いや、待つも何も全て彼の思惑通りで、それに対する満足の笑みだろうか。
敢えて確かめる言葉は私を単に弄りたいだけ。
そんな嫌味な笑みに、言葉に、腰に回る手の感触に、苛立ちより強く安堵する私は末期だ。
でも、そうそう簡単に服従する生き物だと思うなよ?
そんな啖呵は心の中。
口元にはただフッと勝気な弧を浮かべると高いヒールのかかとを更に上げて、彼の頭を引き寄せると痛々しい口の端の傷痕に舌を這わせた。
ああ、
コレコレ…。
味と言うより体に巡る酔いに似た開放感と恍惚感。
依存だ。



