その場所を思いつくのにえらく時間がかかったものだと自分に呆れる。

何故すぐに思い出さなかったのかと。

もし彼が端から追いかける気などなかったのであれば、向かう先など一つしかない。

『はじまり』だ。

彼が私に誘われた場所。

そこに今度は私が誘われ足を向けるのだ。

向けたのだ。

彼の思惑のままに。

思惑であったのだから、私がここに現れると信じて疑っていなかったのだから私が声をかけた姿はいつもの笑みでさらりと出迎えてきた物だ。

それこそあの時と同じ装いで、頭まで黒いフードに身を包み、煙草を咥えて紫煙を漂わす。

ただ、相違を上げればだ、

「綺麗な顔が台無しだけど?」

「ついね……美味しそうな刺激に惹かれちゃって」

煙草を咥える口の端は痛々しく血の痕を示す。

煙草を移した手の甲にも彼の【遊び】の名残が鮮明。

一瞬は彼のそんな姿に貯蓄していた不満も憤りも落とし忘れていたけれど、改めて拾い直してしまえば不満の上乗せだ。

「つまり、私とのゲームを忘れて他の刺激に誘惑されてたわけ?」

「忘れてはないよ」

「鬼ごっこ仕掛けておいて追いかけもしなかったじゃない」

「フッ…」

「何よ?」

「俺、鬼ごっこしようなんて一言でも言った?」

「……」

「ゲームをしようって言ったけど、俺が鬼でセンセを追いかけるなんて一言も言ってないでしょ?」

「っ……補導してやろうか」

「補導し返してやろうか?」

出来る物ならやってみろ!

そんな啖呵を切り返せないのは、私の本能が補導されたがってるからだ。

いや……捕獲か。