そんな感覚を抱く自分に焦って、振り切るように歩きだせば、

「痛っ……」

チクリと痛み足を止めたのは彼からのそれじゃない。

もっと低い位置、買ったばかりの靴に反抗されるようにかかとの皮膚が赤味を広げている。

刺激を求めた微々たる対価の様に。

こんな微々たる刺激の為の対価。

そんな風に感じていたタイミングに、不意に自分を呼び出す携帯のコール音。

確認すれば待ち受けには自分の恋人の名前が表示され、可かとの痛みを気にしながら応答すれば久しぶりと言える声音が聴覚を刺激した。

『やっと出た。何回か電話したのに』

「ん、久しぶり」

『怒ってた?』

「……忘れてたって言ったらどうする?」

『フッ……手厳しいな。ごめんって』

「別に怒ってないわよ」

怒ってなんかいなかった。

ただ、私達の関係に価値があるのかと思い直しただけ。

恋人でいる必要はあるのかと。

実際その存在を忘れていたのだ。

その程度の存在であり、入り込む久しぶりの声音にも刺激は感じない。

そんな事を感じながら、かかとの痛みに気を取られながらのつまらない会話。

つまらない…わ。

つまらないわよ?

ねえ……

『今夜、会える?埋め合わせもしたいし、……話もあるんだ』

つまらないわ………セツ。