ほら、何もあそこに求めるでもないのだ。

あの日はどこか疲労して、寂しい誕生日と言う感覚に過剰に落ち込んでいただけで。

自分の私生活はこんなにも満ち満ちて……、

「ルージュ…」

「ハイ、」

「このルージュ、卯月さんのお好みの色じゃないですか?」

「……あ、はい、……はい、好きだわ。っ……それ貰って帰ろうかな」

「ありがとうございます」

なんて……なんて……馬鹿な。

顔が赤くなってはいなかっただろうか?

この激しい胸の焦りが音として漏れていない?

馬鹿馬鹿しい勘違いをした。

【ルージュ】という響きに、呼び名として反応して返事をした自分に驚愕と羞恥と。

そんな瞬間を図ったようにヒリッと痛んだ彼の印と。

『足りてるの?』

そんな風に問いかけられるような痛みの煽りにさえ悔しさからの熱が込み上げ目を細めてしまう。

だって……そうだ。

見て見ぬふりで次から次へと。

それに気が付く前に誤魔化す様に店から店へ。

でも、とうとうその意識に追い付かれ問いかけられてしまったのだ。

『満たされる?』かと。

楽しいと思う。

嬉しいと思う。

新しい服や靴や化粧品や、刺激はあって興奮はして……でも足りない。