手放したもの……

つまらない今までの日常、卯月紅花と言う名前、人としてのプライドと衣服や人として生きるのに必要であった情報ツール。


与えられ得た物……

ルージュと言う呼び名、彼からの存在意義、つまらぬ人間という殻からの開放感、……不本意にも心地のいい温もり。



後は……、


「痛っ___」

「ん、良い顔。でも動かないで?失敗してほしくないでしょ?」

「むしろ、そんな物を肌に刻んでほしくないんだけど?」

「そんな、俺が強引にしたみたいに言って、」

いや、強引だったでしょ。

私が『嫌だ』『あり得ない』と拒絶したって『ピアスみたいなものだから』『これも刺激的でしょ?』なんて相変わらずニヒルな笑みで卑怯な言葉を印籠の様に掲げ押し切ったくせに。

いつものラグの上、相変わらず身に纏うのは白いベビードールという堕落姿でソファマットに半身を預けて致されている事に眉根を寄せ恨みをたっぷり込めた眼差しで彼を捉える。

そんな私の不満などなんのその。

むしろまったく視界に収めない彼の視線はもっぱら私の下着のみの内股に注がれている。

この下着姿だってそうだ。

好き好んでこんな格好をしているわけではなく、最初に風呂を借りた時にサラッと身に着けていた衣服を隠されてしまったのだ。

そうして与えられ始めたのは一応新しいランジェリーで色は決まって白い物。