聞き間違いか?なんて、確かめる様に巻き付いていた体を押し離して、言葉の真意を探る為に覗き込んでは見たけれど。
綺麗で妖しい笑顔が艶やかな唇から再度弾く言葉は、
「舐めて、」
聞き間違いじゃなかった…。
「っ……頭は正気?」
「至って正気だけど?だって、舐めたら治るって言ったのはルージュでしょ?」
「それは言葉のあやでしょう!?舐めて治るなら医者は要らんわ」
「じゃあ、飼い主として。舐めて癒して?」
「っ……」
こいつ、何がどうあっても舐めさせる気満々だ。
手当の一環として通用しないなら飼い主としてペットを服従させようとしてくる。
それを肯定するように顎の下を擽りにくる指先の腹立たしい事と言ったら。
しかも、そんな反抗心を嗅ぎつけたように、
「何事も【刺激】だよ」
「っ……」
「それとも、【つまらない自分】にまだ縋ってたい?」
あからさまな煽り文句だ。
私の弱みをここぞとばかりに突いた煽り。
目に見えたそれに誰が馬鹿正直に乗るか!と、荒ぶるのは心ばかり。
それを表に出せたのは不服の様な表情ばかりで、底意地の悪い綺麗な笑顔を一睨みしてみせると。
「っ……」
味よりも早く鼻を抜ける血の匂い。
追って味覚を狂わすような鉄っぽい感覚は味と言っていいのかどうなのか。
「いい子だね。ルージュ」
「っ……」
「美味しい?」
美味しいわけあるか!ふざけるな!
そう思うのに……。
初めて……アルコールを口にした時の感覚を思い出す。
決して美味しいとは感じなかった。
それなのに初めて体に巡る熱っぽさや遠心力の様なバランス崩壊は変に後を引く感覚で。
気が付けば依存。
それに似ていると気が付いた瞬間はすでに手遅れなのだ。



