畏怖をまともに抱く感覚もあると言うのに、それすらも摘み取る補足の様に、

「どうせ夏休みじゃない。その間だけでも羽目を外す気分で試してみたら?」

そんな一言にあっさり『そうか』と躊躇いを手放す私は相当人生に疲れていたんだろうか。

それでも渋々決意したような息を吐きだし眉根を寄せると、

「……飽きたらやめるわよ」

「いいよ。じゃあ、まずお互いに今までの関係性を払拭しておこうか」

了承としての一言を零せば彼の方も特別再確認もなく話を進めて、早くも飼い主としてペットを甘やかす様に手櫛を通しながら頭を撫でてくる。

まあ、了承した時点ですでに契約範囲内。

されるがまま、したいようにさせておこうと特別言葉も挟まず彼の次なる言葉を待っていれば、

「……ルージュ」

「……はっ?」

「ここでの呼び名。ルージュにしようかなって。センセの名前って紅花(くれは)でしょ?紅って印象からルージュ」

「………馴染まない。いきなりそんな洋風なニックネームつけられてもね」

「いいじゃない。猫みたいで可愛いけど?」

「どうでもいいけどね。ここまで来たら飼い主様に逆らわないわよ。……それより、先に手当済ませたらどう?とりあえずその血を流すか拭くか…」

「舐めて、」

「………はっ?」

今、何かトチ狂ったような命令をされたような…。