おかしいな…。

香西さんはコーヒーを好んで飲んでいたはずなのに…。

それとも、今日はコーヒーを飲みたい気分じゃなかったのだろうか?

…いや、彼女は“コーヒーが苦手”だと言ったはずだ。

気分の問題じゃないとなると、一体何なのだろうか?

僕は首を傾げると、自分のデスクへ戻った。


夕方になった時のことだった。

「はい、もしもし?」

それまでデスクのうえに置いていたスマートフォンが震えたので、彼女はそれを耳に当てた。

その瞬間、彼女の表情がサッと変わった。

「えっ…今、どこにいるの?

ビルの前にいるって?

…わかった、すぐに行くから」

香西さんはそう言って電話を切ると、それまでやっていた仕事を保存するとパソコンの電源を切った。