「離れて。」
「嫌だ。」
離れてと言えば、抱きしめる力を強めてくる優斗。
「邪魔。いつになったら離れるの?」
「次の授業が始まったら。」
授業が始まったらって……あと五分もある。
毎度毎度、こんな感じで周りはもう見慣れたようで、私たちのことは気にしていない。
たまに見られて目が合う時があるけど、その時の恥ずかしさと言ったら言葉では言い表せない。
どうか優斗にハグされてるこの瞬間だけは空気のように扱ってほしい。
「あと五分で始まる。離れろ、バカ。」
「沙織より賢いから離れない。」
こいつ……バカにしやがった。
もうなに言っても無駄だから、諦めてため息をつく。
本来ならば好きな人にされて嬉しいはずのハグも、今は恥ずかしいだけ。
なんせ今ここは教室なのだから。



