「沙織。」
「な、何…?」
「絶対振り向かずに壁の方向見とけ。」
「え……?」
隣にいる誠を見ると真剣な表情をしていて。
なんとなく嫌な予感がした。
「喧嘩、するの…?」
「…巻き込んで悪い。でも沙織には指一本触れさせねぇから。」
だから安心しろ、と続けて優しく微笑む誠。
「でも、誠は…?
誠は怪我しちゃうでしょ?」
「しねぇよ、これくらいじゃ。」
「四人もいるんだよね?無理だよそんな」
「沙織。」
私の言葉を誠が制する。
その時、近くで数人の男の声が聞こえてきた。
多分、この声の主たちが私たちをつけていたのだろう。
「目、閉じろ。」
「え……?」
「早く。」
誠に言われ、素直に目を閉じる。
少しして、何かに包まれる。
それは感覚だけでもわかった。
誠に抱きしめられているのだ。
「大丈夫だから、ちょっとだけ待ってろ。」
その言葉に返事はしない。
というか泣きそうになってできなかった。
誠が、遠い気がして。
遠くへ行ってしまいそうな気がして。



