静かな館内。
もう人はいないのだろうか。
そんな中、二人の間に流れるのは沈黙。
それも時間が止まったかのような感覚がする。
動けない。
まるで金縛りにあったかのように。
なんだろう、変な感じ。
なんて思っていたら、突然誠の手が私の頭の後ろに置かれた。
………え?
すぐに理解できなくて戸惑う。
でも誠の表情は変わらない。
そしてそのままゆっくり近づいてくる。
もしかして……キス、される?
そう理解した瞬間、顔があつくなって鼓動も速くなる。
え、嘘、こういう時ってどうすればいい?
一人で焦ってくるし、第一誠がそんなこと……
でも確かに誠はもうすぐそこで、思わず目をぎゅっと瞑った。
少しの間が空いた後……
唇に何も当たる感触はせず、その代わりか額に重みを感じた。
どうやらキスじゃなくて額を合わせられたようで。
「……なに優斗以外の男に照れてんだよ。
沙織ってバカなんだな。」
近くにいる誠がそんなことを言ってきた。
その声は低く、ひどく落ち着いていて。
私だけがこんな焦っていたみたいだ。
そうだよね。
キスなんか、そんな簡単にできるものじゃないよね。
良かった、と安心する自分がいた。
どうすればいいのかわからなくて、本当にキスされるんじゃないかと思ったから。
そもそも私たちってそんな関係じゃないって考えてみればわかる。
………でもさ。
誠もなんで私を試すようなことしたのかな!?



