「……誠!」
私は立ち上がって誠の名前を呼ぶ。
すると誠は不機嫌そうな顔で私を見た。
「なんだよ。」
「誠、明日映画行くよ!」
「は?なんで俺が」
「十時に誠の家行くから!
よろしく!」
それだけ言い残して私はまた席に座った。
なぜか静かになった教室がまた騒ぎ始める。
「さ、沙織……」
「ん?どうしたの?」
「やっぱあんた凄いわ。」
「え?どういうこと?」
美香が私を見て驚いているけど、なんでそんなに驚いてるんだろう。
「あんな強引に東崎誘えるの沙織ぐらいだよ。
そもそもあんな無理矢理誘っていいの?」
「いいの!
誠は優しいから用事ない限り断らないよ。」
「幼なじみの特権ってやつか。」
いいなぁ、と美香が羨ましそうに私を見る。
そんな羨ましいことかな?
なんて思いながらも、映画の相手が見つかり私は安心していた。
これで一人で行かなくて済む。
だけどこの時の私は、明日起こることなんて何一つ想像していなかったんだ。



