「嘘です。先輩には、仕方ないから見せてあげます」

「慧くん、ちょっと私の事からかったでしょ?」

楓は、冗談っぽく怒ったようにそう言うと頬を膨らませた。

「ごめんなさい。面白くて、つい」

「面白がってたの?」

酷い、と言ってまた頬に空気を詰め込む彼女が可愛らしくて、もっと意地悪なことを言ってしまいそうになるのを抑える。

慧は、リュックのポケットに入れていた飴玉を取り出すと、お詫びの印に楓へそれを差し出した。

「これで許してもらえませんか」

「もう。私の方が先輩なのに、慧くんにまでそうやって子供みたいな扱いされるんだから。まったく」

楓はぶつぶつと怒りながらも、慧が手にするいちご味の飴に手を伸ばしている。

「あれ、貰うんですか?」

「もう、またそうやって意地悪言う!」

飴で誤魔化されることを子供扱いされているようだと怒っていたはずの彼女が、その飴を受け取ろうとしているところにまた慧が意地悪を言う。すると、彼女はまた表情をころりと変えた。


「あはは、本当にごめんなさい。ちょっとこういうの先輩に対して失礼ですよね、控えます。どうぞ」

「ありがとう。でも、ほんとに失礼だよ。もっと敬ってほしい」

楓は受け取ったいちご味の飴の封を指先で開くと、透き通る赤色の飴を口内へと運んだ。