結局、慧は一人淡々と筆を進め続けていた。彼女は、陽が落ちてもアトリエへはやって来なかった。

もう、絵が完成したから来なかったのだろうか。だとすれば、彼女と慧の関係はこれっきりなのかもしれない。

そんな事を考えながら、少しずつ、あの日の彼女を筆先で創り上げていく。

命を吹き込むように、優しく、時に強く、筆でキャンバスを撫でた。

透き通るような肌に色を加え、唇を色づけた。今にも彼女が、〝愚痴を聞いてよ〟と声をかけてくるんじゃないか。慧は、そんな気がしてならなかった。