青山と別れ、いつものように大学のアトリエへとやって来る。いつもなら本多が先に片付けをしているはずだが、今日は本多の姿はなく、既に三人の学生が筆をとっていた。

慧と同じ、絵画・彫刻コースを選ぶ彼らは絵を描くことに集中しているのか、いつも、とてもじゃないけれど話しかけられるような雰囲気ではない。

邪魔にならないようにそっと自分のキャンバスを手にした慧は、後方にある出入り口の側にイーゼルとキャンバスを設置した。

紫陽花色のワンピースを着た楓の絵は既に描き終えていた慧は、そのキャンバスは横に布をかけたままで立てかけ、次に何を描くかを考えた。

楓の絵は描き終えた。出来栄えだって、今まで描いてきたものに比べればとても納得の行くものだった。だけど、まだ、何かが足りない気がしていた。

あの日、このアトリエ前で見た彼女。あの景色にはまだ程遠い気がして、慧は瞼を閉じるとあの日の彼女を思い浮かべる。そして、筆をとった。

解放された出入り口から見える、あの日彼女が立っていた景色。

そこに彼女がいることを想像しながら、慧は筆を進めた────。