「や…め…」


「お前が悪いんだ…」


体の残り少ない空気を元に絞り出した声は、 なんとか言葉になったがこの状況ではなんの意味もなかった。


状況を少しでも好転させることもない。



「あのバスには同じ会社の奴も乗ってた。今頃会社中に広まってるよ。もう終わりだ…」



命の危機に瀕してなければ、『今の言葉の中に私のせいである理由が一個も見当たらないんですけど。』なんて、軽口を叩いていただろうが、実際の私は、そんな軽口を叩いてる暇なんてない。



そうか…私は逆恨みで殺されるのか…

こんな痴漢野郎に?

そんなのヤダ!

痴漢野郎じゃなくてもヤダ!




私は思いの限り暴れた。


男の手を引っ掻き、体を捻り、足を闇雲に蹴る。


だが、事態は思わぬ方向へと向かった。