「暑い…」


口に出したところで涼しくなるわけではないのだが、日差しを遮るものがないバス停に待つ人は他になく、独り言がだだ漏れ状態だ。


人がいないことをいいことに、ベンチの真ん中に腰を下ろし、ウエスト部分を巻いて丈を短くしたスカートの裾を持って、パタパタと扇ぎ中に風を送る。


まあこんなことをやっても全体的に暑いのは変わらないのだが。


毎日暑い日が続き学校へ行くのも一苦労で、国民の誰もが知っているのにまだこの世に存在していない空間を繋ぐあの素晴らしいドアが一刻も早く開発されるのを日々切に願っているのだけれど…


「私が干からびるのが先だろうな~」


勿論お祖母ちゃんになるって意味の方でだけれど、実際問題、このままの状態が続いたらお祖母ちゃんになるのを待たずに干からびてしまう…


汗は制服の中を次から次へと流れ、シャワーを浴びるが如く振りかけたデオドラントスプレーもこれでは心もとない。
校則は守る方なので化粧崩れを心配することはないが、日焼け止めの方も壊滅状態であることは間違いないだろう。


汗で髪や制服は肌に付きまとい、朝から気持ち悪いし、それに…


「暑い…」


何度目かの暑いを吐いた頃、やっと蜃気楼の靄の中から青い線の入ったバスが現れ待ってましたと言わんばかりに乗り込んだ。