大丈夫じゃないな、この人…



「救急車呼びましょうか?」


「いや、いい…」


短く発せられた言葉は、低く地を這うような声だった。



こえー……



「もし良かったらこれどうぞ。今買ったばかりなので冷たいですよ。」


私はその人にペットボトルの片方を差し出した。


その人はのそりと顔を上げ、私の手の中の物を見つめ…掴んだ。


「ありがとう…」

「いえ、では私はこれで…」

と、立ち去ろうとしたところで、「お嬢さん。」と引き留められた。

「お礼にこれを上げよう。」

渡されたのは手の中にすっぽり入るくらいの黒くて細長い…



何これ?



ONとOFFのボタンが付いているから、何かのスイッチ…かな?



「きっと役に立つよ。肌身離さずもっているといい。」



それだけ言うと、その人は校門の方へのそりそのりと歩いて行った。


「役に立つって…魔法使いのおじさんみたいだったな…」



肌身離さずって…逆に怖いんですけど…



掌にのったそれに視線を落とすと、学校のチャイムがなった。


見上げれば、屋上の時計塔が9時を指している。



「やっばい!急がないと!」