「白石!」


小走りでお兄ちゃんの後を追っていると、廊下に響き渡る大きな声で山崎先生に呼ばれた。


前を歩くお兄ちゃんも足を止め、顔だけを後ろに向けた。


白石って…どっちを呼んだんだろう?

お兄ちゃん?私?


そう思いながらも、お兄ちゃんと同じように足を止め、顔だけを後ろに向けた。



「お前、この間の光太郎と同じ顔してるよ」


そう言った山崎先生の視線は、私の後ろを見ている。


その視線の先で、私ではなくてお兄ちゃんを呼び止めたんだとわかった。


この間の光太郎と同じ顔ってー?


後ろにいるお兄ちゃんの顔を見ても、いつもと同じ。
表情ひとつ変えないで、山崎先生を見ている。




山崎先生は何を言いたいの?



「…言っている意味がわかりません」


淡々と冷静にそう一言だけ言うと、お兄ちゃんは再び前を向いて歩き出した。



私もお兄ちゃんと同意見だけどー…


この状況にどうしたらいいかわからず、お兄ちゃんの背中と山崎先先生を交互に見る。


すると、山崎先生はジェスチャーで¨行け、行け¨と言った。



行け、行けって自分が呼び止めたくせに。
意味のわからないことで。

そんなことを心の中で思いながら、首で小さく頷くと、お兄ちゃんの後を慌てて追った。