今年の夏はもう終わってしまった。まだあと半分以上夏休みはあるというのに。
「体育祭の行進曲、意外にむずいっけなー」
謎の方言で渚沙が教室にズカズカと入ってきた。
「うん、ここのtrioとか特に」
そんな会話をしていたら紗和子先輩が教室に戻ってきた。
「分からないところがあったら聞いてね」
「はい」
い、今の会話聞かれたかも。ただのサボりだと思われたかな、その上部内一下手。最悪。
渚沙は何かを察したのか、すぐさま教室を出て行った。部長って絶対権力。怖すぎる。
「紗和子先輩、ここ教えていただけませんか」
恐る恐るたずねると、先輩はこう言った。
「ここの部分ね、私も1年の時に結構つまずいたんだよね。難しいけど頑張ろ」
そういって優しく教えてくれた。先輩は最初から私たちが話していた事が、サボりでないことを知っていたようだ。良かった。先輩は適当に決めつけて怒ることなんて絶対にしない。
「ありがとうございました」
先輩に教えてもらって、少し合わせて帰った。下手すぎて私がいると足を引っ張ってしまうから迷惑なはずなのに、紗和子先輩は何も言わないで練習に付き合ってくれる。そんな先輩には感謝の気持ちしかなかった。