カフェ バタフライがひと月の中で一番忙しくなってきた頃、



「皇楽。電話入ってる」



先輩が取り次いでくれた電話を皇楽は不思議そうな顔で受け取った。



「皇兄! 今バイトだよね?」



声の主は藍楽。

やたら慌てた藍楽の声に皇楽は冷静な声で問い掛ける。



「何かあったのか?」


「実は、委員会の大事な書類が無くなって……わたしまだ学校なんだ!」


「学校って……朗楽の迎えは?」



今日は藍楽が迎えに行く日だ。


既にいつもの時間より優に二時間は経っている。



「保育園には連絡した。雄兄も練習試合で隣の市まで行ってて行けないし……」



高原家の大黒柱である母は生憎の出張中。


身動きを取れる人間が一人もいない状態だ。



「とにかく、終わり次第誰かが行くこと。……雄楽にも言っとけよ」


「うん……わかった」



頷いた藍楽の声を聞いて皇楽はとりあえず受話器を置く。



早退させてもらうにもホール内はバイトたちが慌ただしく右往左往している。



「……何かあった?」



電話から視線を上げれば、立ち尽くしていた自分の顔を不思議そうに見つめる天が居た。