私は下を向いてるからわからないけど、葵の表情はいいものとは言えないだろう。


しばらくしてから葵がゆっくりと口を開いた。


「俺には、好きな人いるから」


……うん。


知ってる。


誰かもわかってる。


私が分かってるってこと、葵もたぶん分かってる。


でも言わない。


それが暗黙の了解なんだ。


「そっか」


それだけ返すと会話は終わった。


少し顔をあげて葵の方を見ると、視線が私に向いていた。


出会った時と変わらない純粋な目。


汚れてる私を、そんな目で見ないで。


ドキドキしちゃうから。