急に私の目の前に一筋の光が差した。

(何!?)

キィィィン

金属音がする。

「桜夜さん!離れてっ!」

沖田さんの緊張感のある声が響いた。

前を見ると沖田さんが腰に差していた刀を抜いていた。ひったくり犯の男が刀で私に斬りかかったのだった。

「藤堂さんっ!」

「はいよ」

平助くんは動かなくなっていた私を軽々と持ち上げて沖田さんとひったくり犯の男から距離を取った。

「な、何が起こって…?」

声が震えて言葉が続かない。息もままならない。
目の前で本物の…凶器を向けられたのだから。

「あの男…生活に苦しくなって狂ったか。思考が働いていない。…全く運のない人だな」

平助くんはボソッと低く呟いた。その声色は怒りと呆れが入り混じっていた。

気付けば男がまた沖田さんに斬り掛かる。
(危ない…!)
その瞬間白刃が煌めいた。


倒れたのは男だった。
何が起こったのか理解が追いつかない。

倒れた男をお奉行さん達が縄で括ろうと囲んだ。

沖田さんはいつもの笑顔で私と平助くんの所に戻ってきた。刀を鞘に納めながら。


「…殺ったのか?」

平助くんがいつもの何倍も低い怖い声で聞く。

「…いいえ?峰打ちで気絶させてお奉行さまに任せてき
ました。こんな所で流血沙汰なんて面倒ですからね。」

沖田さんは笑顔だが声色は冷たかった。

(こんな危ない仕事をしていたんだ…。死がいつも隣り合わせな仕事…)

「桜夜、大丈夫?顔が真っ青だけど…」

「無理も無いですよ。真剣を向けられたんですから。
…帰って落ち着きましょうか。」

「そうだね。俺、甘味処の代金払っとくから、桜夜と先行ってて。後で代金請求するから、総司に」

「奢りだと思ったのになー。…桜夜さん、歩けますか?帰りますよ?」

「あ、はい…」

沖田さんと平助くんはあんな事の後なのに軽口を叩いていた。私を元気づける為なのか、人を斬ることが日常茶飯事だからなのか…。


ドクンッ

心臓が何かに掴まれたような、苦しい、気持ちが悪い感じがした。

そして直感的に思った。


何かが起こる…と。