剱聖伝

《…なぜだ》


無表情の顔に僅かに浮かぶ

動揺。


バーミリオンの目の前に


横たわる炎に包まれた女性

にそう疑問を投げかける。

どんな事にも動揺などしな

かった最強の剣士の顔がう

ろたえているのがわかる。

少し前…バーミリオンに襲

い掛かる黒竜の前にシーリ

アが立ちはだかった。


直撃した黒炎は、容赦なく

シーリアの肉体を消滅させ

ていく。


《私…少しはお役に…た


てましたか!?》


美しい瞳が哀しく、そして

優しく見つめてくる。


《生きて…ください…そし

てベルゼを…》


《シーリア…》


バーミリオンが何か言おう

とするが、シーリアの瞳か

ら流れる涙を見て、何も言

えなくなる。


《私はあなた様を…お慕い

申しておりました》


ずっとシーリアが心に秘め

た想い…決して明かす事は

ないと決めていたはずなの

に…最後の時を迎えて堪え

る事が出来ない。


やがて炎に包まれ、跡形も

なく消えた。


バーミリオンの顔がうつむ

き静止する。


まだ両手を黒竜に繋がれた

ままで…。