剱聖伝

男は風を頬に受け、目をつ

ぶっていた。ピリッと張り

詰めた空間に身を置き、黒

馬に跨がる姿は、美しいと

さえ思えるほどであった。


漆黒の鎧と身の丈ほども


ある大剣を背中に背負う


男はゆっくりと目を開く。



《来たか…》


そう抑揚のない声が発せら

れると、遠くで戦いのノロ

シが上がるのが見えた。


ベルゼ王国への一斉侵略が

開始されたのである。


後方に道は無く、ただ前進

あるのみ。


《う〜ん、いい眺め》

       ・・
バーミリオンの右上に居る

男が手をおでこにあて、遠

くを見つめている。


まるで女性のような透き通

った声で喋る男は宙に浮い

ていた。真っ黒な衣服を身

に纏い、この世の者とは


思えぬほど整った容姿。


彼は名をルシフォールと名

乗った。