剱聖伝

《そう…あの時のクローデ

ィスの身に起こった事…》




     ◆

小さな少年が笑いながら走

ってくる。


《母様!!こんなの見つけた

よぉ!!》


満面の笑みで両手をグイっ

と前に突き出す。



その中には何処で捕まえた

のか小さなバッタが入って

いた。


それを見て優しく笑う。


その笑顔を見ただけで少年

の心は満たされ、幸せな


気持ちになる。厳しい寒さ

も落ち着き、少し暖かい風

が少年の顔をなでた。さっ

きまで手のひらで大人しく

していたバッタが大きく跳

んだ。


《あっ…》


少年はバッタの跳んでいっ

た方へと首を向ける。


《……何か来る》


向こうから凄い勢いで走っ

てくる何か。


遠くで誰かが叫ぶ…


逃げろと…


少年の目に映るのは


両手に短剣を握り、直進


してくる黒装束の男…いや

女なのかもしれない。