《また、無益な血が流れよ

うとしているのですね…》

湖のほとりで瞑想する乙女

がいる。


[ティア・ファレスト]


精霊魔法を使い


代々国に遣えてきたファ


レスト家の末裔である。背

中まである金色の髪がそよ

ふく風になびく。


聡明な瞳と端正な顔立ちが

知的な印象をあたえる美人

であった。


《ティア、またここに来て

たのかぃ》


突然、背後から声がした。

視線をそちらに移すと、ゆ

っくりとした足取りで白髪

の老婆が歩いてくるのが見

える。


《はい、ババ様。また…精

霊達が騒いでおります……

どうして人は争うのでし


ょうか…》


深い悲しみを称えた瞳が


やり場のない心境を物語っ

ていた。


《解らぬ…が太古の昔より

絶えぬものじゃて》


そう言うと老婆は苦い表情

で湖を見つめる。月が水


面に映り、その上を静かな

風が揺らしていた。