アダム・グレイルが死んだ朝


「貸して」と私の手からペットボトルを取った男が、濡れたシンクを拭き始める。
構わないで欲しいのに。そう強く思うほど、この男は私に近づこうとする。それが許せない。

「澪、やっぱり紅茶にしようかしら」

少し離れた場所から、あの女の声がする。
それに男は素早く答えてから、自分の母親の為に紅茶を淹れる準備を始める。
どこまでも従順な男。

「あんたは一生変わらない」

「・・・どういう意味?」

「言葉のまま」

「なら、紫奈は変わるの?」

「え?」

「変わらないのは、お互い様だろ」

溢れ返った炭酸水のグラスを洗い流して、冷凍庫から氷を取り出して、まだ冷えていない炭酸水のキャップを開けた。

「あんたと一緒にしないで」

「同じだろ」

「煩い」

「彼氏出来た?」

「は?」

予告なく覗き込まれた顔に、驚くより先に眉を顰めた。
近づきたくない。近づかないで欲しい。