片手に日傘、片手に花の包みを抱えて「あじさい堂」に着き、ちょっと苦労しながら日傘を畳もうとしていたその時。

準備中の札のかかった入口のドアがバンッと開いて、中から若い女性が飛び出してきた。

ミントグリーンの鮮やかなカットソーに白のレース風の素材のフレアスカートといった出で立ちの彼女は、驚いて立ち尽くしている私には目もくれず、すごい勢いで走り去っていった。

アスファルトに七㎝はありそうなヒールの踵がカツカツと尖った音をたてる。

(ああ、またか)
私はため息をつきながら入口のドアを開けた。

「何、まだなんか文句……」
険しい顔でこっちを見た店長──石和奏輔さんが私を見て驚いた顔をした。

「なんや、悠花ちゃんか。びっくりした。どしたん。そんなとこから」

私は普段、店の裏手の通用口から出入りしている。

それについての「どしたん?」だとは思うけれど。

「どしたん、じゃないですよー。奏輔さん、またやったんですか」
私は呆れた声で言った。
「またやったって何や」