「やった! ダメもとで言ってみて良かった!!」


奏輔さんは椅子からぴょんっと立ち上がって喜んだ。
まさに飛び上がって喜ぶといった感じ。
ほんとに感情表現のストレートな人だ。なんだかこっちの方が照れてしまう。

「じゃあ、改めてよろしくお願いしますっ」
テーブルに平伏する勢いで元気よく、私も慌ててぺこりと頭を下げた。

「こ、こちらこそ。よろしくお願いします。……あまり、お役に立てるか分かりませんが」

奏輔さんが顔を上げてこっちを見た。
「あのさ。それって東京風なん?」
「え、それって?」

「だから、その『私なんかで良かったらー』とか『お役に立てるか分かりませんがー』とか。そういう風に言うのあっちじゃ常識なんかなーと思って」

「と、東京風というか日本ではわりと一般的な『謙遜』というやつなのではないかと思うのですが……」

言ってから「しまった」と思ったが遅かった。

「なーんや。謙遜なん? 本心では別にそんなん思うてへんてこと?」
「え、ええっとですね。いえ、決して本心で思ってもないことを言ってるわけではないんですけど、その、なんていうか社交マナーというか、会話の潤滑油的なものというか……」

って、なんでこんなに必死に説明してるの私っ。
焦っている私をよそに奏輔さんは屈託のない笑い声をあげた。

「なーんや。悠花さん、やたらとそうやって自分サゲるようなこと言うからさー。過去によっぽど何かあって自己評価下がりまくりだとか、それとも元来めっちゃネガティブだとかそういうのなのかと思ってちょっと心配になってさー。謙遜でそんなん思うてへんのやったら良かった!」

なにげに心の地雷を二、三発踏み抜かれたような衝撃が……。

そうだ。ここで働くっていうことはこの人のこういう良く言えば無邪気、悪く言えば無神経な発言に常に晒されなきゃいけないってことなんだよね。心が折れないといいけど。