古都奈良の和カフェあじさい堂花暦

「ほんまにありがとう。助かったわ。バイト代ちゃんと払うから。あ、そう言えば俺、給料の話もせんと働いて貰ってしもうて……」

「いいですよ、そんなの。うちの祖母が強引に決めたようなものでしたし」

「そうはいかん。こういうことはちゃんとせんと」
そう言って、奏輔さんは立っていくとしばらくして封筒を手に戻って来た。

「急だったからこんなんで悪いけど」

何も書いてない茶封筒を渡される。

「ほんまに助かったからバイトの子の時給よりちょっと色つけといたから。そいでも全然たいした金額やあらへんけど」

「……いえそんな。ありがとうございます。では遠慮なくいただきます」

私が持ってきたバッグ……といっても和装だったからちりめん地の巾着みたいな袋にその茶封筒をおさめる間、奏輔さんは、頬杖をついてじいっとこっちを見ていた。

「悠花さんってさ」
「はい?」


「今、プーなん?」
「はい!?」

「あ、プーって無職っちゅう意味なんやけど」
「い、意味は分かります」

分からないのはそういうデリケートな質問をズケズケ出来てしまうあなたの神経の方なんですけどっ。
ほぼ初対面に近い相手にそういうこと聞く? 普通。

「いや、さっき千鳥さんが言うとったやろ? 東京で仕事辞めて戻ってきて今職探し中やって。違うた?」
「違うてませんけど……」

「そやったらさ。明日からもしばらくここ手伝ってくれへんかな?」
「えっ」
「悠花さんも聞いとったやろ。パートの沢野さん。しばらく来られへんようになったって」
「それは……聞いてましたけど」

「バイトの募集かけても新しい子決まるまで、どんなに早くても一、二週間はかかると思うねん。な、その間だけでも!!」

ぱちんと掌を合わせて拝むように頭を下げられ、私は慌てて言った。

「や、やめて下さい。そんな、困ります」
「何で?」

「何で……って、だって私就職活動中ですし」
「だから仕事決まるまでの間だけでええから! っていうか新しいバイトの子決まるまでの間だけでもええから!」

「ええー……、でも……」
「面接やら行く日はその時間休んで貰っても構わんから。な! 頼みます。この通り!!」

「やっ、だから頭上げて下さいってば。そんなにされても困りますから」