古都奈良の和カフェあじさい堂花暦

閉店時刻の19時まで、お客さんの波が途切れることはほとんどなかった。

最後のお客さんを送り出して、外のプレートを「本日の営業は終了しました」というのにかけ替える。

「お疲れ!」

メニューの看板を中に入れて、入り口のドアに鍵をかけて戻ってきた奏輔さんが片手をあげて言った。

「お疲れさまです」
私もテーブルの上を片づけながら会釈をかえした。

「いやー、今日は盛況やったな。悠花さんが来てくれて助かった!」
「いいえ。お邪魔にならなかったなら良かったです」

「ま、ちょっと座って休んでや。開店からほとんどずうっと立ちっぱなしやったやろ」

「それは、奏……店長も同じじゃないですか」
「うん。俺も疲れた。だから片づけの前にちょっと休む。付き合って」

そう言って手近の椅子にどかっと腰を下ろす。

「ほら。悠花さんも座って座って」

「あ、はい。じゃあこれだけ運んじゃいますね」
最後のお客さんのテーブルの食器を手早くトレイにのせて厨房に運ぶ。

かわりに、ピッチャーに入っていたお水をグラスに注いで持っていくと、
「おお、ありがとう!」
奏輔さんは、嬉しそうに笑って頭を下げた。

私が座ってグラスを持つと、奏輔さんは
「それじゃ乾杯!」
と言ってカチンとグラスをぶつけてきた。

「……何に乾杯なんですか?」

「何やろ? 今日の商売繁盛に、でええか」
「分かりました。じゃあ乾杯。お疲れさまでした」

私たちは顔を見合わせて笑ってからグラスに口をつけた。